24歳のときだったかな、30歳で死のうって決めたんだよね。
少ない貯金を心配していつ終わるかわかんない人生を生きるより、人生の最後を決めて計画的に楽しみたいって思ったんだ。
何十年も働くの嫌だったし。
あと再起の見込みがない感覚が、決め手だったかな。
大学4年の時に就活に失敗して、第2新卒で就活してもダメでさ。
24歳で就職できないなら、これから年を取っていくにつれてもっとチャンスはなくなっていくわけじゃん。もう詰みじゃん。
一度レールから落ちたら終わり。
希望がないんだよね。
社会からいらないと言われ続けるなら、社会に居場所を求めるのを諦めよう。
真っ当に働いて結婚してって人生は諦めて、今持っている貯金で楽しめることを全部やったら死のう、そうしよう。
生きててもつらいだけ。
人生を振り返ってみてもつらいだけ。
世間的には「昔はよかった」って言っている人は馬鹿にされているかもしれないけど、私からすればうらやましい。
自分の昔を振り返っても、感情的にどなってくる母親しかいない。
あの頃はよかったなんて思ったことは一度もない。あの時に戻りたいって思ったこともない。
人生のどの時点に戻っても苦しいし、もう一回この人生をやらなきゃいけないなら生まれてきたくない。
どうしても人生を巻き戻さなきゃいけないなら、父親と母親が結婚する前に戻って絶対に二人が出会わない世界線に行きたい。
でもさ、現実世界でこんなつらさを吐露する場面なんてないから「ちょっと落ち込んじゃってさ」くらいのフランクな言い方するじゃん。
そしたら「生きてればいいことあるよ」とかテキトーぬかす馬鹿がいるじゃん。心底腹立たしい。
私も死ぬからこいつも一緒に始末してくれないかなって思っちゃう。
お前みたいな無神経馬鹿のせいでこっちの生きづらさが助長されてんの、わかってる?
軽い一言で解決したように思われちゃうから「その程度の悩みだったんだ」って周りにも思われる。
そうじゃねえよ。我慢してんだよ、諦めてんだよ。
相手に負担をかけたくないから長々と自分の話はしないし、そもそも適当な相槌しかできない人間に自分の深い話なんてできっこない。
でもしつこく聞いてくるからしょうがなく「ちょっとした悩み」に見せてるのに、相手はそれが私の悩みのすべてだと決めつけて安易な返しを言ってくる。
本当に滅んでほしい。
ごめん口が悪すぎたわ。
でも適当なこと言うくらいなら、神妙な顔で黙っててくれる方が何千倍も救われるのにな。
でさ、30歳で死のうと決めた私なんだけど、今何歳だと思う?
28?29?それとももう30になる年にはなってて、誕生日までカウントダウンしてるとこ?
実は全部ハズレ。もう31歳になっちゃった。
気がついたら過ぎてた。
結局30で死ぬって決めたはいいものの、どうやって死んだらいいのかわかんなかったんだよね。
高所恐怖症だから飛び降りは足がすくんで無理だったし、首つりをやるにはロープをかけられる場所がない。ドアノブにタオルを巻いてやってみたけど、血液で顔が破裂するかと思った。苦しくて無理。
いい感じに苦しくならずに、頸動脈だけを締められる角度があるらしくてさ。いろいろ実験したんだけど見つけられなかったんだよね。
有識者がいたら教えてくれない?
薬は成功確率が低そうだったし、失敗して後遺症が残ることもある。これは一番最悪、パス。
残るは練炭だけど、準備が大がかりだから家族にばれて終わりそうだったので却下。
免許を持っていてレンタカーとか運転できたらよかったけど、無免許だから自宅の風呂場しか選択肢がなかったんだよね。
こうなると一人暮らしからしなきゃいけない。圧倒的に金が足りない…
こんな感じで全然死ねなくて、でも一回だけ成功しかけたんだよね。
皮肉にも30歳で死のうと決める前の22歳の時、就活真っ只中の時なんだけど。
なんにも考えずに駅のホームでぼーっと突っ立ってたのね。
そしたら急にさ、ぐわっと死にたい気持ちに全身飲み込まれたんだ。
タイミングよく電車が来るアナウンスが流れてた。
「あ、私死ぬんだ」って思った。
もう生きなくていいんだって気持ちと、やっぱり怖いなと半々だった気がする。
一歩一歩黄色い線に近づいて、電車がそこまで来てる音と圧力を感じてた。
もう一歩踏み出すのが怖い。
電車のクラクションが聞こえる、あともうちょっと…
って時に、目の前を電車が通過していった。
また死ねなかった。
もう何をしても死ねないから、死んだように生きるしかない。
全然前向きじゃないけど、こうやって人生って過ぎていくのかなって思った。